昨今、人々の働き方の形態が大きく変わりつつあります。
ひと昔前では、同じ会社に定年まで勤め上げるのが当たり前とされてきましたが、今では、一つの会社に固執せず、よりよい職場環境を求めて転職をする方々も多くなってきました。
そんな中、会社に所属せず、個人で働く選択肢として「フリーランス」と「個人事業主」という2つの形態があります。
一見すると似ているように感じられるこの2つの立場ですが、実は重要な違いがあるのをご存知でしょうか。
この記事では、フリーランスと個人事業主それぞれの特徴や違い、税金や社会保険の仕組み、そして独立して仕事を始めるために必要な手続きまで、分かりやすく解説していきます。
これから個人で仕事を始めようとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。
個人で働く2つの形態:
フリーランスと個人事業主の特徴と始める方法
独立して仕事を始めようとするとき、「フリーランス」と「個人事業主」という言葉をよく耳にすることはあるのではないでしょうか。
しかし、言葉は似たような意味で使われがちですが、実際には重要な違いがあります。
仕事の依頼を個人で受けて活動する方法について、詳しくご説明していきますので、自分に合った働き方を見つけるためのポイントを押さえていきましょう。
フリーランスと個人事業主の基本的な違い
結論からお伝えすると、大きな違いは「開業届」を提出したかどうかです。
フリーランスは、特定の企業に所属せずに仕事を引き受ける人を表す一般的な呼び方になります。一方で個人事業主は、税務署への開業届提出を通じて事業運営を行う人を指す法的な立場です。
フリーランスの多くは個人事業主として活動していますが、両者は完全に一致するわけではありません。
個人事業主になるには、2つの重要な条件があります。
1つ目は「独立して仕事をすること」、2つ目は「定期的に継続して仕事を行うこと」です。
たとえば、フリマアプリ等で時々洋服を売る程度では個人事業主とは認められません。
一方で、毎月決まってウェブデザインの仕事を受注している場合は、個人事業主として認められます。
ビジネスの現場では、状況に応じて使い分けが必要です。例えば、税理士に相談する際は「個人事業主として活動しています」と伝えます。
友人から「今どんな働き方をしているの?」と聞かれた場合は「フリーランスとして独立して仕事をしています」と答えるのが自然です。
フリーランスの定義と特徴
フリーランスとは、会社に所属せずに自分の裁量で仕事を選んで働く人のことです。
例えば、ライターやデザイナー、プログラマーなど、専門的な技術を持つ人が、仕事ごとに企業と契約を結んで収入を得る働き方がこれにあたります。
具体的なイメージとしては:
このような働き方は、中世ヨーロッパで「自分の意思で君主を選んで仕える傭兵(free lance:自由な槍)」から名付けられました。
現代では「独立して自由に仕事を選べる人」という意味で使われています。
個人事業主の定義と特徴
個人事業主とは、会社(法人)を作らずに自分の名前で商売を行う人のことです。
個人事業主になるには、まず税務署に「開業します」という届出を提出することが必要です。その後は、毎年の収入や経費を計算して確定申告を行う義務があります。
分かりやすい例を挙げると:
フリーランスが「会社に属さない働き方」を表す一般的な言葉であるのに対し、個人事業主は「税務署に届け出て、正式に商売を始めた個人」という法律で定められた立場になります。
つまり、フリーランスは働き方の呼び名で、個人事業主は税金を納めるための正式な立場、というように理解するとわかりやすいでしょう。
個人事業主になるための具体的な手続き
個人事業主として活動を始めるためには、まず税務署に「開業届」を出す必要があります。この届出により、正式に事業を始めることができ、経費の計上など税金面での特典も受けられるようになります。
確定申告の方法は「青色申告」と「白色申告」の2つから選べます:
申告方法 | メリット | 必要な作業 |
---|---|---|
青色申告 | 最大65万円の所得控除が可能 | 複式簿記での記帳が必須 |
白色申告 | 手続きが比較的簡単 | 収入と経費の記録は必要 |
青色申告を選ぶ場合は期限に注意が必要です。
事業を始めてから2ヶ月以内、または開業した年の3月15日までに「青色申告をしたい」という申請書を税務署に提出しましょう。
※税務署はご自身のお住まいの地域により管轄が異なりますので、事前に調べておきましょう。
具体例を挙げると:
- 1月に開業→その年の3月15日まで
- 7月に開業→9月末まで
- 12月に開業→翌年2月末まで
最近は、スマホのアプリやパソコンで利用できる会計ソフトが充実しています。
これらを使えば、わざわざ記帳代行者に仕事を依頼しなくても、会計ツールを使えば、複式簿記の知識がなくても青色申告に必要な記帳を行うことができます。
個人事業主が支払う税金の種類
個人事業主には4つの主要な税金が関係します:
税金の種類 | 概要 | 納付時期 |
所得税 | 年間所得に応じた課税 | 確定申告期間 |
住民税 | 前年所得に基づく課税 | 6月以降 |
個人事業税 | 事業形態による課税 | 都道府県の指定期間 |
消費税 | 売上高に応じた課税 | 確定申告期間 |
所得税は経費計上を適切に行うことで、合法的な節税が可能です。
収入から必要経費を差し引いた所得に対して課税され、所得額に応じて税率が変動します。
ここでは深く触れませんが、「消費税」には「課税事業者」と「免税事業者」があります。
以前は、年間売上が1000万円以上の事業者が「課税事業者」となり、消費税を納める義務がありました。一方で、年間売上が1000万円以下の場合は「免税事業者」として消費税を納める義務が免除されることが多かったのです。
しかし、2023年10月からインボイス制度が導入され、「適格請求書発行事業者」の登録が始まっています。
この制度では、取引の際に消費税額を正確に示した「適格請求書(インボイス)」の発行が求められるようになりました。
そのため、免税事業者であっても取引先から適格請求書の発行を求められる場合があり、課税事業者として登録する個人事業主が増えてきています。
結果として、売上に関係なく、取引先の要求に応じて「インボイスの登録」をする免税事業者も増加しており、消費税の課税事業者への移行を選ぶケースが多く見られるようになっています。
個人事業主の社会保障制度
独立後の保険制度は、通常は国民健康保険と国民年金に加入します。
以前の職場の健康保険を任意継続できる場合もありますが、保険料は全額自己負担となります。
老後の備えとして以下の制度を活用できます:
これらの社会保障手続きは自己管理が必要となりますが、保険料控除による節税効果も期待できます。状況に応じて最適な組み合わせを選択することをおすすめします。
フリーランスと個人事業主の違いについて理解を深めていただけましたでしょうか。
独立して仕事を始める際は、税務手続きや社会保障制度の違いを把握しておくことが重要です。
適切な準備を整えて、充実した独立事業者生活を送りましょう。
まとめ
この記事では、個人で仕事をする2つの形態を説明してきました。
フリーランスは「会社に所属せずに働く人」という一般的な呼び方であり、個人事業主は「税務署に届け出て正式に商売を始めた人」という意味になります。
個人で仕事を始める際の流れをまとめると:
1. 税務署への開業届の提出
2. 確定申告の準備
3. 健康保険や年金の手続き
一見面倒に思える手続きですが、以下のようなメリットがあります:
– 仕事で使った費用を経費として計上できる
– 小規模企業共済などを活用して、節税しながら、自分の将来のために退職金をコツコツ積み立てていくことができる
– 自分の裁量で仕事を選べる
まずは自分の希望する働き方を明確にし、必要な手続きを一つずつ進めていくことで、安定した個人事業を始めることができます。